夏の終わりから秋にかけてを代表するフルーツの一つがぶどうです。近年では、皮ごと食べられる品種や種のない品種など、もともとさまざまな種類の品種があったぶどうが、さらにバリエーションが増えています。ぶどうは、全国各地で栽培されていて、ご当地ぶどう品種の開発なども盛んにおこなわれていることから、ふるさと納税の返礼品としても非常に高い人気を誇るようになっていると言われています。

それでは、年々その人気が高まっているぶどうについて、育てる過程で袋がけの工程があるのは皆さん知っているでしょうか?最近は、ぶどう狩りが人気になっていることもあり、袋がけされたぶどうを目にしたことがある人も多くなっているかもしれませんが、この袋掛けの工程がなぜ行われているのかはほとんどの方が知らないのではないでしょうか?

実は、ぶどうに限らず果物栽培を行う際には、多くの場合、袋掛けの作業が行われているのですが、実はこの作業は消費者にとっても重要な役割を担っています。そこでこの記事では、ぶどうの育成の基本と袋掛けの意味について簡単にご紹介したいと思います。

基本的なぶどうの生育について

それではまず、基本的なぶどうの生育について解説します。皆さんもご存知の通り、ぶどうは夏の終わりごろから秋を旬とするフルーツです。(最近はハウス栽培が盛んで、春から冬まで楽しめます)

そのため、露地栽培を行うぶどう農園では、冬の間は準備期間となり、堆肥を撒いたり、ぶどうの木を寒さから守るために、幹に藁を巻くといった作業が行われています。またこの他にも、冬の時期に剪定をしておくことが重要で、この時期の作業が結実と収穫量を大きく左右します。

冬を乗り越えたぶどうは、大きく分けると、以下のような2つの作業が行われます。

春の時期に行われる作業について

3月頃になり、気温がある程度高くなると、幹に巻いた藁を外します。このわらは、ぶどうの木の周りに敷くのですが、その目的は防草などの効果があるからです。
また、ぶどうの木は、木の皮に虫が入り込みやすいので、この時期に皮をむき、ツルツルの状態にします。さらに、雨の影響で病気になることがあるため、ビニールなどで雨から保護します。

初夏に行われる作業について

5月頃に入ると、芽かきと呼ばれる作業が行われます。『芽かき(めかき)』は、 目的とする収穫物や栽培方法に適していない不要な芽を取り除き、芽の数を制限することで、残った新芽に養分が十分に行き渡るようにするための作業です。ぶどうに限らず、さまざまな農作物の生育で行われます。
そして、さらにここから蕾の数を減らし、房作りが行われます。これも、芽かきと同様、養分が分散してしまうのを防ぎ、良質なぶどうを育てるための作業です。その後、6月頃になると、ぶどうが花を咲かせ、実をつけ始めます。この段階で、さらに房数を制限するため、摘房が行われます。

ぶどうの生育では、複数の段階で房数が制限されていて、非常にもったいないように感じますが、これが美味しいぶどうを作るために重要なポイントになります。

ぶどうの袋掛けの意味とは?

ぶどうは、上記のように、房数がかなり制限されて、美味しいぶどうになるようにしっかり栄養がいきわたるような工夫がなされています。そして、収穫の1カ月半ほど前になると、ようやく袋掛けの作業が行われます。

このぶどうの袋掛けは、害虫や鳥、風、病気などからぶどうの実を守るのが目的です。皆さんもご存知の通り、ぶどうは熟すとともに、独特の甘い香りを放つようになります。スーパーなどでぶどうが店頭に並んだ時には、すぐにわかるぐらい強い香りを持っています。
そして、このぶどう特有の甘い香りが拡散すると、その匂いに誘われて虫や鳥がわらわらとやってきてしまうのです。当然、虫や鳥が来れば、せっかく育てたぶどうの実を食べられてしまうことになるでしょう。

つまり、ぶどうの袋掛けは、ぶどうの香りが拡散するのをある程度抑え、鳥や虫からの被害を可能な限り少なくするという大事な役割を持っています。もちろん、袋掛けによって鳥害や虫害の全てを防ぐことなどできませんが、抑制効果は十分にあると言われています。さらに、袋掛けは、以下のようなメリットももたらせてくれます。

農薬の回避

果物の多くは、生育途中で袋掛けが行われます。これは、果物が生で食べるものということから、人が直接口に入れるものに、農薬がかかることが望ましくないからというのも大きな理由です。

袋掛けをしておけば、ぶどうの葉を守るために農薬などを散布しても、実に直接農薬がかからなくなり、それを口にする人の健康も守れるというメリットがあります。

ブルームを保護できる

ぶどうは、完熟前にブルームと呼ばれる白い粉が表面に発生します。このブルームは、ぶどう自身が作り出す成分で、水分蒸発の防止、害虫の防止、病害の防止などを目的としています。新鮮なぶどうを選ぶときには、このブルームがきちんと付着しているものがオススメです。

ぶどうは自然の中で生育する植物ですので、雨や風の影響を受けます。そして、袋掛けなどをせずに放置していた場合、雨や風の影響でブルームが流されてしまう恐れがあるのです。つまり、ぶどうの袋掛けは、ぶどうをさまざまな問題から守るためのブルームを保護してくれるというメリットがあります。

このように、ぶどうの生育を考えた場合、袋掛けの作業が非常に重要です。ぶどうの袋掛けは、害虫や鳥から実を守る他、農薬を回避しブルームの保護などを行ってくれますので、消費者にとっても非常に心強いものなのです。

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まとめ

今回は、ぶどうの育成の中でも、袋掛けと呼ばれる作業が何のために行われているのかをご紹介しました。

ぶどうの袋掛けは、一房ずつ手作業で行われるため、非常に手間がかかります。当然、この手間はぶどうの価格に影響を与えますので、ぶどうの価格を抑えるためにはこの手間を省いた方が良いのではないか…と考えてしまう方もいるかもしれませんね。しかし、ぶどうが熟してくると、甘い臭いを放ちますので、その匂いに誘われて虫や鳥などが寄ってきてしまい、せっかく育てたぶどうがダメになってしまう可能性があるのです。さらに、農薬などがぶどうの実に着くと、それを食べる人の健康被害の可能性が出てしまいます。ぶどうなどの果物は、生のまま食べるのが普通ですし、より安全でおいしいぶどうを消費者に届けるためには、非常に重要な行程になるのです。

ぶどうは、袋掛け以外にも、美味しく育てるにはかなりの手間がかかる植物です。ぶどうを食べる時には、そういったことを知っておくことで、よりおいしく感じられるようになるかもですね!