大都市圏の戸建て住宅業界では、「庭付き」の一戸建て住宅を購入することがなかなか難しい状況になっています。家を建てられるだけの土地が少なくなっていることもあり、土地価格が高騰して狭小地に三階建て住宅が建てられるケースが増えていて、自宅の敷地内に庭が用意できないという声はよく耳にします。ただ、大都市圏から少し外れると、現在でも小さな庭付きの土地を購入することは意外に難しくなく、テレワークなどの新しい働き方が認められつつある現在では、郊外に少し広めの住宅を求める方が増えています。

そして、憧れの庭付き一戸建て住宅を手に入れた時には「自宅で果樹を育てれば、毎年取れたての果物が楽しめるのではないか?」と考える人が多いようです。ただ、果物が実る果樹の栽培については、専門知識が必要で非常に難しいのではないか…、小さな庭で家庭菜園の知識もない自分には難しいかな…と、実際に手を出すにはハードルが高いと考える人が多いです。果物は、年々その味が良くなっていくのに比例して、販売価格も高騰していますし、専門知識のない素人では育てられない…と考えてしまうのは致し方ないことでしょう。

しかし実は、果樹の中には、庭に植えてから難しいお世話などをする必要のない「ほったらかし果樹」などと称されるものもあるのです。そこでこの記事では、果物の育成に関する知識があまりない方でも簡単に育てられる、手間のかからない果樹について解説していきます。

ほったらかし果樹の特徴とは

それでは、今まで果樹を育てたことがない人が自宅の庭で育ててみようと考えた時、どのような特徴を持つ果樹を選べば良いのかいくつかのポイントをご紹介します。果樹を育てると聞くと、きちんと実をつけるために受粉の作業が必要なのでは…、ぶどうを種無しにするにはジベレリン処理が必要と聞いたなど、面倒な手間をかけなければ美味しい果物を収穫できない…と考えている方が多いです。確かに、田中ぶどう園のように、販売用の果物を栽培する際には、かなりの手間をかけることで美味しい果物が収穫できるようになります。

ただ、趣味レベルの果樹の育成を考えた時には、仕事や家事の合間にちょっとした手間をかけるだけで、基本的にはほったらかしにできる物が良いと考えてしまいますよね。実は、一般的に美味しい果物が収穫できるとされている果樹の中にも「ほったらかし果樹」と称されるものがあるのです。ここでは、ほったらかし果樹の特徴を簡単にご紹介します。

①受粉の手間がない

受粉は、子供のころに理科の授業で習ったと思います。これは、雌しべに雄しべの花粉がつくことを指していて、果物の栽培では非常に重要な工程となります。

ただ、一口に受粉と言っても、自然受粉と人工授粉と呼ばれる二種類の受粉方法があります。自然受粉とは、ミツバチなどの昆虫が花粉を運ぶことで受粉が完了する方法で、ひとの手が入っていない物を指しています。人工授粉に関しては、人の手で受粉を促す方法で、具体的には、雄花を取って雌花に直接つけたり、綿棒などで花粉を採取して受粉させるといった方法になります。

実は、同じ植物である果樹でも、放っておけば自然と受粉が行われ果実をつける物と、人工的に受粉作業を行わなければ果実をつけないものがあるのです。「ほったらかしでも果物が収穫できる」ことを期待する場合、風や昆虫が自然に受粉してくれる果樹が望ましいです。

②地下茎で育たない

茎と聞くと、地上に出ている部分と考えている方が多いです。しかし、植物の中には地下で茎が育つものがあり、これが地下茎などと呼ばれます。分かりやすい例をあげると、竹やクローバーなどが身近にある地下茎で育つ植物です。

そして、地下茎で育つ植物の特徴は、信じられないほどの繁殖力を持つことで、適切な管理を怠ると一気に繁殖して手に負えなくなるケースが非常に多いです。竹に関しても、繁殖力が異常なほど強く、日本各地で放置された竹林が問題になっているという話を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?

自宅の庭に植える果樹については、こういった地下茎で育つものを植えては絶対にいけません。目に見えない位置で茎が育ちますので、最悪の場合、住宅側に侵食し基礎を破壊してしまう…なんて恐れまであります。ほったらかしで育てられる果樹を望んでいるのであれば、地下茎でない物を植えましょう。

③低木

樹木は、背が高く育つものと、低いままで育つものがあります。当然、庭植えすることを考えている果樹については、背が低いままで育つ果樹が望ましいです。際限なく高く育っていけば、自宅に影響があるだけでなく、近隣の方にも迷惑をかけてしまうことでしょう。例えば、樹木の背が高くなることで、お隣の日当たりが悪くなる、落ち葉が広範囲に飛んでいくなどの問題が考えられます。

低木の果樹であれば、剪定などの管理も楽ですし、果物の収穫も脚立などを用意しなくても構わないなど、非常に楽ができます。

手間がかからない庭植えにおすすめの果樹とは

それでは、今まで果樹を育てたことがない人でも、比較的簡単に育てることができる、おすすめの「ほったらかし果樹」をいくつかご紹介します。ここでは紹介しきれない果物もありますが、日本人に人気の高い果物を中心にご紹介します。

びわ

びわは、日本人にも非常に人気の高い果物として有名で、贈答用の高級品も販売されています。ただ、街中を歩いていると、一般住宅の庭にびわがなっているのを見かけたことがあるという方は多いのではないでしょうか?

実はびわは、害虫や病気の発生が比較的少なく、冬から早春にかけて果実が成熟していくという特徴から、放任していても果実が勝手に育つことで有名です。つまり、庭に植えてある程度成長すれば、ほったらかしにしておいても、毎年美味しいびわの実を収穫することが可能なのです。なお、自宅で、大玉の果実を収穫したいと考えるのであれば、摘蕾、摘果の一手間が必要です。

イチジク

イチジクは、独特の食感と濃厚な甘みで人気の果物です。イチジクは、果樹の中でも、植え付けから収穫までの期間が最も短いのが特徴でもあります。

イチジクには、夏果と秋果、年に2回の収穫時期があるのですが、同じ木でも夏果の方が大玉で味も濃厚だという特徴があります。イチジクは、庭植えで育てても、そこまで大きな木に育ちませんが、鉢植えで育てることも可能です。鉢植えで育てる場合、夏果だけを収穫できるよう、剪定でコントロールすることも可能です。

ブルーベリー

ブルーベリーは、栽培の手間がかからない、低木であることから、果樹栽培初心者の方が庭植えする果樹として非常に人気が高いです。ブルーベリーは、植え付けをしてから、次の作業が『収穫』と言われるほど、年間を通して作業がありません。また、樹高についても、高くなる品種でも2mほどと、脚立なしでも収穫することが可能です。

この他、夏に果実を収穫できるだけでなく、春は可愛い白い花をつけ、秋には紅葉を楽しめるなど、視覚的にも楽しみが多い点が人気の理由になっているのだと思います。

個人的におすすめなのが、秋の味覚として有名な柿です。植え付けから3年ほど我慢する必要がありますが、果実をつけるようになればびっくりするほど大玉の果実をたくさん収穫することができます。渋味のある柿でも、簡単に渋抜きできますし、干し柿などに加工することで長期間その味を楽しむことが可能です。

一般的には、庭植えする果物として有名ですが、鉢植えで育てることも可能で、鉢植えの場合は適度に摘果することで、大玉の柿を意図的に作ることも可能です。柿は、隔年結果性がないため、毎年コンスタントに収穫が楽しめる点もおすすめできるポイントです。

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栗は「果物なのか?」と疑問に感じる方がいるかもしれませんが、日本の分類方法では果樹に分類されます。そして、栗はほったらかしでも育てられる果樹として有名で、収穫に関しても落ちてきた実を割るだけと、非常に手間が少ないです。

注意が必要なのは、栗は栽培に適した条件を満たしている必要があるという点です。栗は、日陰が大敵の果樹で、日当たりの悪い場所に植えると、簡単に枯れてしまいます。また、乾燥に弱いという特徴があるため、植え付けの際には根を乾燥させないことが非常に大切です。もちろん、育成時も、あまりに土中が乾燥してしまうとダメになるので、適度な水やりは必要です。つまり、完全な放任とはいかないという点は理解しておかなければいけません。ただ、日陰が大敵、乾燥に弱いという点に気をつければ、とても楽に育てられるので、おすすめの果樹ではあります。

まとめ

今回は、せっかく庭のある家を買ったのだし、果物が収穫できる果樹を育てたいと考えている方に向け、家庭菜園初心者の方でも手間をかけずに育てることができるほったらかし果樹について解説しました。

なお、いくら「ほったらかし果樹」とはいえ、庭に種を植えるだけで勝手に実をつける…ほどは簡単ではないですよ。当然、生きている植物でありますし、水やりや施肥など、最低限の管理は必要になります。あくまでも、人工授粉や袋掛けなど、販売用のフルーツのように、毎日管理のためにさまざまな作業が必要になるわけではない果樹のことを分かりやすく「ほったらかし果樹」と言っているだけです。

ちなみに、上でも紹介しているように、果樹はそれなりの大きさの木に成長するというイメージがあるため、家庭菜園が可能なレベルの庭スペースが必要になると思っている方が多いです。しかし実は、果物の中には鉢植えでも大きな実を収穫することができる物も少なくないので、「うちは庭がないしな…」とあきらめなくても良いと思いますよ。ただ、鉢植えで果樹を育てる場合、庭植えするよりも手間がかかる…は注意しておきましょう。というのも、庭植えであれば、雨の日などもあり水やりはそこまで頻繁にしなくても構わないのですが、鉢植えの場合、小まめに水やりをしないと、すぐに水切れを起こして枯れてしまう可能性があります。他にも、鉢植えの場合は、栄養が限られているため、適度に選定や摘果をしてあげる必要があるため「ほったらかし」とまでは言えないかもしれません。

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