今回は、ぶどうの種無し処理について解説していきたいと思います。ぶどうの豆知識として知っておけば、どこかでトリビアを話す機会があるかもしれませんし、ぜひ最後までご覧ください。

ぶどうは、自然のままだと基本的に実の中に種が入っています。もちろん、もともと種のない品種も存在するのですが、それは一般市場に出回ることが無いため、「ぶどうは中に種が入っているからあまり好まない…」と言ったネガティブなイメージを持っている方も少なくありません。
ただ、近年人気になっているシャインマスカットやニューピオーネなどの品種は、種が入っておらず、手軽に食べられる点で人気になっています。それでは、近年増えている、種無しぶどうの品種は、どのようにして作られているのか知っていますか?実は、「種なしぶどう」として有名な品種も、栽培時に特別な処理をしなければ、種がある状態になってしまうのです。

この記事では、ぶどうの種無し処理の『ジベレリン処理』について、これがどういったものなのかを解説します。

種無しぶどうを作る方法とは

通常、ぶどうは実の中に種を持っています。昔から日本国内で人気の巨峰を思い出していただければ分かりやすいですが、果肉だけを食べて種を口から出さなければならないですよね。実は、こういった「口から種を出さなければならない」という点を嫌う方が意外に多く、それが近年の種無しぶどうの人気につながっているのだと思います。

それでは、本来、種が入っているぶどうを種無しにするにはどうすれば良いのでしょうか?種無しぶどうは、育成の最中に、ジベレリンという植物ホルモンによる処理を行うことによってできます。ジベレリン処理は、ブドウの栽培を行う時、一つ一つのブドウの房について、手作業でその処理を行わなければならないため、非常に手間がかかる栽培方法となります。

ぶどうのようなフルールは、めしべの柱頭に花粉がついて受粉することで子房の中に種子ができ、子房がふくらんで実になります。ただ、ぶどうは、受粉しなくても、房をジベレリン液に浸すことで、実を作ることができます。この特性を使い、受粉していない『種無しぶどう』が完成するわけです。

ぶどうのジベレリン処理は、ぶどうが開花・受粉を迎える満開前と満開後の2度にわたって行います(※品種によって時期が異なります)。1度目の処理は種無しにするため、2度目の処理は、果粒を肥大化させる目的で行われます。ジベレリン処理は、全て手作業で行うため、非常に手間がかかる作業なのですが、これをしなければ種無しぶどうにならないので、欠かせない作業となります。

ちなみに、ジベレリン処理は完ぺきではなく、品種によっては種が少し残ってしまうものや、味がかすかに薄くなってしまうものもあります。

ジベレリン処理とは

現在では、ぶどうの種無し処理として有名な『ジベレリン処理』ですが、そもそもジベレリン処理をすることで、なぜ種無しぶどうができるのか疑問に感じる方が多い事でしょう。

ジベレリンとは、植物ホルモンの一つで、これは植物が発芽し、茎や葉を伸ばし、花を咲かせ、実をつけたりするのに必要なもので、植物自体が持っています。ジベレリン以外にも、オーキシン、サイトカイニン、エチレンなどが、植物ホルモンとして有名です。

そして、これらの植物ホルモンの中でも農業に利用されているものが、植物成長調整剤などと呼ばれていて、ジベレリンはその中でも最も利用されているものです。ここで、ジベレリンの詳細について解説します。

ジベレリンは、日本人が発見した植物ホルモン!?

ぶどうの種無し処理に利用されるジベレリンは、なんと日本人が発見したとされています。

まず、ジベレリンが発見された経緯について解説しましょう。種子消毒が十分でない水稲(米)の育苗では、葉色が薄く、他の苗よりも飛びぬけて伸びるものがあるそうです。このように、稲がひょろ長く伸びる状態は、「イネばか苗病」という稲の病気とされていて、この苗は植えても草丈が伸びるだけで、やがて枯れてしまうそうです。
そして、この稲が『伸びる』という作用に注目した日本人研究者がいて、イネばか苗病菌から取り出したものを、植物にかけるとその植物が良く伸びるという、伸長促進効果があることを確認しました。そして、この成分がジベレリンで、世界で初めて発見された物質となります。

ちなみに、上の流れから分かるように、ジベレリンは、当初、植物ホルモンと考えられたのではなく、菌が出す何らかの物質と考えられていました。その後、稲以外にも、マメ科植物やタケノコなど、良く伸びる植物が持っている成分だということがわかり、植物自体が持つ植物ホルモンの一種と位置付けられたそうです。

現在、ジベレリン類は、100種類以上の植物から発見されていて、以下のような作用を持つと言われています。

  • 茎や葉を伸ばす作用
  • 受粉なしに果実を大きくさせる作用
  • 開花を早める作用
  • 休眠中の種子を発芽させる作用

種無しぶどうは、上記の中でも「受粉なしに果実を大きくさせる作用」を使っています。

まとめ

今回は、ぶどうの豆知識として、種無しぶどうを作るための技術である『ジベレリン処理』について解説しました。近年では、シャインマスカットや瀬戸ジャイアンツなど、種無しぶどうの人気が非常に高くなっています。ピオーネなど、贈答用のぶどうとしても昔から人気だったのですが、近年では、種無し処理をされたピオーネが『ニューピオーネ』の名称で流通するようになっています。

ただ、ぶどうの種無し処理のジベレリン処理は、ぶどうの育成中に手作業で行わなければならないため、非常に手間がかかり、その分価格が上昇してしまいます。また、ジベレリン処理を施したとしても、種が残ったりすることもありますので、その辺りは注意しましょう。

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