今回は、皆さんの身近に潜んでいる食中毒の原因について解説したいと思います。食中毒と聞くと、傷んだ(腐った)食品を誤って口にして腹痛や吐気を催す、ウイルスや食中毒菌が付着した食品を口にすることで引き起こされるものというイメージが強いと思います。実際に、日本国内で発生する食中毒については、その多くがウイルスや細菌、寄生虫が原因となっています。

しかし、日本国内で発生する食中毒については、自然毒や天然毒素と呼ばれるものが原因となっているケースも意外に多く、農林水産省のwebサイトで紹介されている令和元年~令和5年に発生した食中毒の原因を見てみると、約7%が自然毒が原因となっていたのです。ちなみに、自然毒とは、キノコや野草、ふぐなどに含まれている毒素のことを指しています。フグやキノコに関しては、毒素が含まれているということが有名なため、ほとんどの方はしっかりと処理したうえで口にするはずです。しかし、普段何気なく食べている食品の中にも、自然毒が含まれているケースがあるのです。

そこでこの記事では、意外に知られていない、身近にある食中毒原因について解説します。

データ参照:農林水産省サイトより

天然毒素(自然毒)を含んでいる可能性がある食べ物

それでは、食べると腹痛や嘔吐、吐き気など、食中毒の危険性がある天然毒素について、これを含んでいる可能性があるものをご紹介しています。天然毒素については、正しい知識を持っていれば、きちんと避けることができるため、自分や家族の実を守るためにも、以下の内容はおさえておきましょう。

ジャガイモ

ジャガイモは、現在の食卓に欠かすことができない食材として有名です。焼いても煮ても、揚げても美味しい食品なので、さまざまな料理に使用されていきます。ジャガイモの毒素に関しては、「芽」の部分に毒素が含まれていることは有名ですが、実は、ジャガイモの状態によってはきちんと芽の部分を除去しても、食中毒の危険性があるのです。

ジャガイモの天然毒素は、ソラニンやチャコニンと呼ばれる成分です。実は、この成分はジャガイモの芽や皮(特に光が当たって緑色になったもの)に多く含まれています。そのため、調理の際、下ごしらえとしてこれらの部分を十分に取り除くことが大切とされているのです。通常のジャガイモであれば、ピーラーなどで皮をむき、芽の部分を取り除けば、食中毒の危険性はほぼありません。

しかし、長時間光に当たったジャガイモの場合、皮だけでなく、実の部分にまで毒素が回ってしまい、天然毒素による食中毒の危険性が高くなるのです。例えば、家庭菜園で作られた未熟なジャガイモや、育てる際に土から出て日光に当たっていたなどと言った場合、ジャガイモが緑色に変色していると思います。このようなジャガイモは、皮を剥いても、通常の物よりも、緑色が強く出ています。そして、緑色に変色したジャガイモは、全体に毒素が回っていることから、食中毒になる危険があるため、食べるのは控えましょう。

ちなみに、新じゃがの場合、緑色への変色が早いとされています。スーパーなどで朝に品出しされたものが、夕方には緑味がかっている…なんてことも多いとされるので、注意して購入するようにしましょう。以下に、正常なジャガイモと、変色したジャガイモの参考になる画像を農水省のwebサイトから引用しておくので、参考にしてください。

引用:農水省webサイトより

野菜・山菜とそれに似た有毒植物による食中毒

天然毒素による食中毒では、有毒であることに気付かず誤って野菜や山菜を採って食べる、近所の方に頂いたものが有毒だと気付かずに食べてしまうというケースが多く報告されています。

こういった事態を防ぐためには、野菜や山菜の出荷を行う生産者だけでなく、消費者側が野菜や山菜とそれに似た有毒植物の特徴を知っておくことが大切とされています。植物の中には、食用の野菜と非常に似た見た目をしている有毒なものも多いのです。例えば、以下のような植物は天然毒素による食中毒の危険があります。

  • ニラと間違いやすい有毒植物
    スイセン、スノーフレーク(スズランスイセン)、キツネノカミソリ、ゼフィランサス(タマスダレ)など
  • ギョウジャニンニクと間違いやすい有毒植物
    コルチカム(イヌサフラン)、スズラン、バイケイソウ類など
  • ギボウシ類 (山菜名:ウルイ、ギンボ、タキナなど)と間違いやすい有毒植物
    バイケイソウ類、コルチカム(イヌサフラン)、ヒメザゼンソウなど
  • フキ(ふきのとう)と間違いやすい有毒植物
    ハシリドコロ、フクジュソウ(福寿草)など

上記の、食用か有毒か間違いやすい植物については、農林水産省が画像をまとめたリーフレットを作成しているので、山菜採りを良くする方はダウンロードしておくのがおすすめです。

> 野菜・山菜と間違いやすい有毒植物一覧

ビワの種子の粉末による食中毒

ビワは5~6月下旬ごろが旬と、初夏を代表する果物として有名です。ただ、このビワは、未熟な果実や種子に、天然の有害物質が含まれているため、注意が必要なのです。

実は、平成29年には、ビワの種子を粉末にした食品から、天然有害物質であるシアン化合物が高い濃度で検出され、製品の回収に発展したという事案が複数ありました。ビワの種子は、健康に良いなどと言われ、健康茶などに加工され、さまざまな製品が開発されています。しかし、シアン化合物を高濃度に含む食品を多量に摂取した場合、健康に良いわけはなく、健康を害す原因となってしまいます。

もちろん、熟した果肉については、健康を害すような毒素は含まれていないので、安全に食べることが可能です。

アジサイの葉による食中毒

アジサイの葉は、一般的に食用に使われることはないのですが、実はアジサイの葉を食べて、嘔吐やめまいなどの中毒症状を引き起こしたという事例は少なくありません。

なぜ食用でなアジサイの葉により、このような問題が発生するのかというと、見た目が「大葉(青シソ)」に似ていることで、これと間違って口にしてしまった…という理由が考えられます。この他には、見た目が単純に美しいことから、飾りとして皿に盛り付けたものを誤って口にするというケースが考えられます。

その他、天然毒を含む生き物や植物

天然毒を含み、人体に悪影響を与える生き物や植物は、上記以外にもたくさんあります。誤って口にしてしまう可能性が高いものを以下にまとめておきますので、注意しましょう。

  • 食品中のピロリジジンアルカロイド類
    キク科、ムラサキ科の植物の中には、ピロリジジンアルカロイド類という天然毒素を含むものがあります。国内ではピロリジジンアルカロイド類によるヒトの健康被害の報告はないのですが、肝臓などに悪影響を及ぼすケースもあるようです。
  • キンシバイ(巻貝)(テトロドトキシン)
    巻貝の仲間のキンシバイは、ふぐ毒と同じ毒を持っている場合があります。通常、キンシバイは、食用として流通していないのですが、海でBBQなどを楽しむなんて時には、自ら採って口にするなどと言った方もいます。フグ毒は、最悪の場合、死に至ることもあるので、食べないようにしましょう。
  • キノコ類
    キノコは、食用に流通しているもの以外に、さまざまな種類があります。山に入れば、食べられそうなキノコを見かけることも多いのですが、毒キノコの可能性も高いので、正しい知識を持っていない方は絶対に採って食べないようにしましょう。日本では、年間10~30件、人数にして30~70人程度が、毒キノコを食べたことによる食中毒を発症しているとされます。毒キノコの危険性は、かなり周知されているはずなのに、これほどの件数があるので、注意しましょう。

上記以外にも、フグやサトイモ科のクワズイモなど、天然毒素を持った動植物は意外に多いので注意が必要です。

まとめ

今回は、身近に潜む天然毒素を含む食べ物についてご紹介しました。記事内でご紹介したように、口にすると腹痛や嘔吐など、健康被害を引き起こす可能性がある食品は意外に多く存在するのです。

特に注意したいのがジャガイモで、さまざまな料理に使用されるとても身近な野菜として有名なのですが、人体に悪影響をもつ毒素を出すことがあるのです。一般的には、芽の部分が危険とされていますが、緑色に変色したジャガイモも危険なので、食べないようにしましょう。